VBMことはじめ
VBM(voxel-based morphometry)とは各個人の脳画像をテンプレートに当てはめて標準化する自動処理を用いて形態を比較する手法である。用手的に関心領域を入力する従来の手法に比べると、労力が少なく簡便であること、その特徴により多数の被験者を対象にできること、仮説に基づく特定の領域だけでなく全脳を解析対象にできること、客観的であること等の利点がある。
ここでは主にSPM12を使った前処理の方法についてメモしておく。
Workflow
画像解析の一連の流れは 撮像 → 画像の質を確認 → 匿名化・形式の変換 → 前処理 → 統計解析 のようになる。
ファイル形式
MRIなどの医用画像撮像装置から出力されるデータはDICOM形式(.dcm)である。DICOMのデータモデルはPatient→Study→Series→Imageのように1対多で階層化されており、原則として1枚のImageごとに1ファイルとなっている。
DICOM形式のままでは扱いにくいのでVBMの解析では一般的にNIfTI(Neuroimaging Informatics Technology Initiative)-1形式(.nii)が用いられる。これは3D(構造)あるいは4D(機能)画像シリーズを1つのファイルで管理することができ、左右情報などのメタデータもヘッダに格納される。ヘッダの仕様はThe NIFTI file formatを参照。
DICOM形式からNIfTI形式に変換するためのツールがいくつかある。
なお、医療現場の慣習では医用画像は下から見上げるように左右を反転して表示される(radiological convention; L is R)が、SPMでは左右は反転しないで表示される(neurological convention; L is L)ことに注意する。
前処理の実際
前処理(preprocessing)とは画像を被験者間で比較できるようにテンプレートに当てはめる作業である。これにより、各被験者の画像間でそれぞれのvoxelを同一の部位に対応させ、voxelごとに統計解析を行うことができるようになる。
構造画像の解析は以下のような流れで行われるのが一般的である:
- 原点合わせ(reorientation):座標系を標準に合わせる
- 分割化(segmentation):灰白質、白質等の組織種ごとに画像を分割する
- 解剖学的標準化(spatial normalization):テンプレートに合致するよう変形する
- 信号値変換(modulation):解剖学的標準化のための変形に伴う膨張・収縮の補正
- 平滑化(smoothing):統計処理のために画像をぼかす
Reorientation
画像の座標系を設定する。とはいえ、後のステップで細かい位置合わせは自動で行われ、ここでの設定はそのためのhintとなるに過ぎないため、この手順を厳密に行う必要はない(テンプレート画像とのズレが距離5cm、角度 15°以内程度なら解析に大きな影響はないと言われて いる)。
原点(origin)を前交連(anterior commissure; AC)の上端とし、水平線を前交連の上端と後交連(posterior commissure; PC)の下端を結ぶAC-PC lineにする。
SPM12ではDisplayで画像を開き、原点をクリックし、pitch、必要に応じてroll, yawを設定し、Set Originした上でReorientで対象のファイルを選ぶと座標系の情報がNIfTIファイルのヘッダに保存される。この際、複数のファイルを選ぶと同じ座標系をまとめて設定できる。
テンプレート画像とのco-registration(SPMにもともと備わっている機能)を用いて自動化するスクリプトもある。
※前交連の同定方法
https://www.youtube.com/watch?v=AwNJAUKLhqY
- まず、矢状断でfornixのtermination pointを探し、その下にある丸いふくらみがACである。
- 冠状断では側脳室を目、第三脳室を口に見立てて、その上にある「口ひげ」のうちの白質部分(信号強度が高い部分)を探すイメージがわかりやすい。
- 水平断で、両大脳半球の白質が交差する点を選ぶ。
Segmentation
分割化(segmentation)とは画像を白質、灰白質、脳脊髄液などの組織種ごとに分割する過 程である。
各座標における各組織が存在する事前確率(tissue probability maps; TPM)と、組織種ごとの信号強度のモデルに基づく尤度から事後確率を求めている。各組織種の信号強度についての事前情報(例えば、T1で白質の信号強度はだいたいxxxくらいである等)は利用せず、on-the-flyで組織種ごとの信号強度をモデル化しているので、同じアルゴリズムがT1, T2, PD, FLAIRなど様々な撮像法に対し(もちろん組織種ごとに信号値のコントラストがあることが前提になるが)同様に適応できる。
さてここで、TPMはMNI座標系に標準化されているが、被験者の画像はそうではない点が問題となる。被験者の画像でTPMを適切に利用するためには、被験者の画像もMNI座標系に標準化されていなければならないが、一方で標準化のためにも組織種の分割情報を役立てたい。すなわち、segmentationとspatial normalizationは相互に依存しあっている過程と言える。SPMでは実際、この2つの過程(とバイアス補正)を単一のモデルで統合的に処理している(unified segmentation)。アルゴリズムの詳細はAshburner, J. & Friston, K. J. Unified segmentation. NeuroImage 26, 839–851 (2005).を参照。
なお、各組織種の信号強度をモデル化する場合、単一のGaussianでモデル化するのがシンプルであるが、組織種が現実には単一の組織に対応していないことや、あるvoxelが複数の組織種を含んでいてそれぞれの組織の信号強度の中間の強度になっている場合があること(partial volume effect)などから、複数のGaussianの重ね合わせでモデル化するのが適当と考えられている。Num. Gaussianはこの重ね合わせるGaussianの個数である。